水虫は医学的には「白癬」という病名で、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)というカビの一種「白癬菌(はくせんきん)」によって、皮膚に引き起こされる感染症です。江戸時代、白癬は田んぼ仕事の人に多くみられたことから「水虫」「たむし(田虫)」という俗称が広まり、現代に至ります。
白癬菌は高温多湿の場所を好むため、ほとんどが一日中靴や靴下を履いている「足」への感染(足水虫)であり、次いで「足の爪(爪水虫)」が多くみられます。
水虫と言うと「お父さんの病気」として、男性に多いようなイメージがあるかもしれませんが、昔と比べて女性の社会進出や生活環境の変化などから、近年は若い女性の発症も増えています。日本皮膚科学会の調査によると、全国の足水虫患者数は人口の約21.6%(約2,500万人)、爪水虫は約10%(約1,200万人)と推計されており*1、よくある皮膚疾患のひとつです。
*1(参考)日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019|日本皮膚科学会
白癬菌はケラチン(たんぱく質の一種)を栄養源としており、ケラチンが多く存在する皮膚の表面「角層」や角質が変化した「爪・毛」などに感染します。白癬菌が感染した部位によって、次のような名称で呼ばれます。
・足水虫(足白癬)
水虫の約9割を占め、「水虫=足水虫」を指す場合が多いです。
・爪水虫(爪白癬)
主に足の爪にできますが、稀に手の爪にもできることもあります。(手の爪の単独発症はない)
・体部白癬
体にできる白癬で、「タムシ」「ゼニタムシ」とも呼ばれます。白癬菌に感染している犬・猫など動物からうつることがあります。
・頭部白癬
髪の毛に白癬菌が感染したもので、円形・楕円形に髪が抜けます。戦前はよくみられましたが、近年は少なくなっています。別名「シラクモ」。
・股部白癬(こぶはくせん)
「インキンタムシ」とも呼ばれ、10代後半~20代の若い男性に多くみられます。
主に太ももの内側に現れ、陰部・臀部(でんぶ:おしり)・下腹部などデリケートゾーンに症状が広がっていくことがあります。
・手白癬
発症頻度は約10%と少なく、足水虫と同じような症状が現れます。
・トリコフィトン・トンスランス感染症
主に柔道・レスリングなど格闘競技をする方にみられる、トリコフィトン・トンスランスというカビによる白癬です。主に首や上半身に赤い腫れ・頭にフケなどがみられます。日本皮膚科学会によると、今のところ、このカビが原因で足水虫になったとする報告はありません。
水虫は「感染症」なので、次のような場面・条件において感染リスクが高まります。
・家庭内(床・絨毯)・ジム・銭湯・プールなど、裸足(はだし)で歩く場所
・足ふきマット・スリッパなどの共有
・同居するご家族に水虫の方がいる
・一日中、靴・靴下を履いていなければならない
特に、同居するご家族に水虫の方がいる場合は、いない方と比べて感染リスクが約20%高くなります。
水虫の代表格である「足水虫」の特徴は、次の通りです。
足水虫の主な症状は「かゆみ」「皮むけ」「ひび割れ」です。ただし、発症初期ではかゆみが現れない場合があります。
また、足にできる水虫の症状には、次のような3つのタイプがあります。
・趾間型(しかんがた)
足の指の間(趾間)にみられる水虫で、足水虫の中で最も多い型です。特に薬指と小指の間に多く現れます。指の間に薄いフケのようなものができ、少し赤くなって乾燥するタイプと、ジュクジュクして白くふやける浸潤タイプがあります。
・小水疱型
かゆみが強いタイプで、足裏の土踏まず・縁に小さな水泡ができます。時間が経つと、赤くなり皮膚がむけます。
・角質増殖型
足の裏(特にかかと)がカサカサ乾燥して、角質が厚くなったり硬くなったりします。皮膚にひび割れがみられます。
(図)足水虫の3つの症状タイプイメージ
足水虫は、白癬菌の感染により引き起こされます。
白癬菌は水虫の人の皮膚から剥がれ落ちた角質(鱗屑:りんせつ)の中でも生存しているので、素足で踏めば付着します。とはいえ、「白癬菌の付着=すぐ感染」という訳ではありません。
<水虫の感染成立ポイント>
・長時間、白癬菌が付着したままである
・付着部分が、白癬菌が好む「高温多湿」な環境である
通常、足に白癬菌が付着しても、足が乾燥していれば自然に剥がれ落ち、付着部分を洗えば流され、感染は成立しません。しかし、「高温多湿」な環境で白癬菌が付いたままになると、菌が増殖して感染が成立します(=足水虫の発症)。また、角質に傷ついた部分がある場合には、洗い残った菌が入り込んで、より感染が成立しやすくなります。
爪には神経がないため、いたみ・かゆみなど自覚症状がありません。そのため、発症しても「爪水虫」と気づきにくいのが難点です。「爪がおかしい」と感じたら、すみやかに病院を受診しましょう。
水虫と言えば、「足のかゆみ」というイメージがあるかもしれませんが、かゆくない水虫もあります。爪水虫は「足の爪」に発症しやすく、特に「親指」に多くみられます。発症すると、爪の変色(白色・黄色に濁る)や爪の表面の縦ジワ、爪がボロボロと剥がれ落ちるなどの症状がみられます。見た目の問題だけでなく、爪に厚みが出て変形してくると、靴に当たって痛みが現れたり、歩きにくくなったりするなど、日常生活に支障を来す場合があります。
(図)爪水虫イメージ
爪水虫では「足水虫のある方の無治療・治療の中断」が主な原因とされ、足に残っている白癬菌が爪にうつることによって発症します。
足水虫の方の約2人に1人が爪水虫を発症しているとした調査結果があり*2、「足から爪へ、爪から足に」に足水虫と爪水虫を繰り返す方もいます。
*2(参考)本邦における足・爪白癬の疫学調査成績|渡辺 晋一ほか. 日皮会誌. 111(14); 2101-2112, 2001.
足水虫・爪水虫が疑われる場合、患部から皮膚・爪の一部を採取して顕微鏡で白癬菌がいるかどうかを調べます(直接鏡検)。なお、検査の際、痛みを伴うことはほとんどありません。
顕微鏡で白癬菌が確認できれば、部位に応じて「足水虫」「爪水虫」と診断します。
ただし、菌がいても少量だと陰性となるケースがあるため、場合により複数回検査することがあります。
一方、白癬菌が確認できなければ「水虫」ではありませんが、足水虫・爪水虫に似たような症状を起こす別の皮膚疾患の可能性があります。
足水虫・爪水虫の治療の基本は「薬物療法」となりますが、同時に感染しやすくなるような生活習慣を避けるための「生活指導」も行います。
なお、足水虫・爪水虫は直接命に関わる病気ではありませんが、適切に治療しないと、他の人にうつすだけでなく、ご自身も足水虫・爪水虫を繰り返しやすくなります。
また、趾間型の足白癬では、指の間(皮膚)の傷口から細菌が侵入して、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの細菌感染症を引き起こすことがあるため、早めにしっかり治療しましょう。
足水虫・爪水虫の治療では、白癬菌の殺菌や菌の増殖を抑える作用がある「抗真菌薬」を使用します。抗真菌薬にはいくつか種類がありますが、症状に合わせて選択します。
足水虫では「外用薬」を基本とします。通常、クリームタイプを使用しますが、患部がジクジクしている場合などには刺激の少ない、軟膏タイプを使います。
なお、塗り薬で効果不十分な角質増殖型や爪水虫を合併している場合には、経口抗真菌薬(飲み薬)を使用することがあります。
【お薬のタイプ】外用薬(クリーム・軟膏)
【お薬の使用頻度】原則1日1回
【お薬の使用期間の目安】趾間型:2か月以上、小水疱型:3か月以上、角質増殖型:6か月以上
※、病変角層の厚さによって異なるため、個人差があります。
爪水虫の治療では、「抗真菌薬の内服(経口抗真菌薬)」を基本とします。ただし、他の薬との飲み合わせのほか、胃の不快感・下痢・吐き気・腹痛といった消化器症状や肝機能障害などの副作用が問題となることがあるため、治療中は定期的な血液検査を行います。近年、爪水虫の治療に「外用療法(塗り薬)」が承認されました。経口抗真菌薬と比べて、完治率は低くなりますが、副作用や飲み合わせの問題で内服できないケース、酷くない爪水虫に対して有用です。
なお、爪水虫のお薬は変色・変形した部分を元に戻すのではなく、白癬菌がこれ以上増殖するのを止めることを目的としています。そのため、治療のゴール(完治)は、薬が効いて感染した爪が先端に押し出され、「全て健康な爪に生えかわること」としています。足の爪の伸びる速さには個人差がありますが、高齢になるほど時間がかかり、通常生えかわりには約1年~1年半かかります。
【お薬のタイプ】内服薬・外用薬(液体)
【お薬の使用頻度】原則1日1回
【お薬の使用期間の目安】内服:3か月、外用薬:長期間
※使用するお薬や個人の症状によって異なります。
・足水虫の塗り薬は見た目で分かる症状の部分よりも広く、足全体に塗ることが大切
・爪水虫がある方は、足水虫の治療も同時に行う
・症状がなくなっても、内部で菌が残っている可能性があるため、しばらく治療は継続する
足水虫・爪水虫をしっかり治すためには、お薬による白癬菌の殺菌・活動抑制だけでなく、並行して感染を予防するような行動も大切です。
・足ふきマット・スリッパ・サンダルの共有を避ける
感染対策として、1日1回、肌への刺激が少ないアルコール除菌剤・除菌ティッシュで足の皮脂を拭き取りましょう。(※皮膚の弱い方は避けてください)
・足は指の間を含めて、丁寧に優しく洗う
ゴシゴシ洗うと、角質を傷つけてしまいやすく、感染リスクを高めます。
・ジム・プール・温泉・サウナ利用後は、足を洗う
白癬菌が付着しても、感染が成立するまでに12時間~24時間かかるとするデータがあります。帰宅後に足をよく洗い、よく乾燥させましょう。
・靴は毎日履き替え、可能な限りこまめに洗い、しっかり中を乾燥させる
洗えない革靴などの場合、内側を塗れた雑巾で拭いて、垢をよく取り除きます。その後、しっかりと乾燥させます。2~3足をローテーションで履くことをおすすめします。
・靴・靴下は長時間履き続けない
靴・靴下を履かない方がベストですが、履く場合にはなるべく通気性の良い素材(綿の5本指靴下など)を選ぶと良いでしょう。また、ときどき靴や靴下を脱いで、風を通すのもおすすめです。
・小まめに部屋を掃除する
水虫患者さんのいるご家庭では白癬菌が垢に包まれて、あちこちに存在しているため、こまめに掃除して、菌の定着を防ぎましょう。バスマットは毎日洗い、洗えない玄関マット・ラグなどは天日干しをします。
きちんと水虫のお薬を付けていても、症状がぶり返すなど、なかなか治らないことがあります。水虫が長期化する要因のひとつに、「家族の隠れ水虫」があります。ご家族に水虫がうつっていても、白癬菌が角層の下の方まで増殖しないと、かゆみなどの自覚症状が現れないので、感染に気づけないケースがあります。こうした隠れ水虫の場合、必ずしも治療を受けているとは限りません。白癬菌保有者が増えることで家庭内感染のリスクがさらに高まり、結果として、足水虫の再感染が多くなるのです。そのため、患者さんだけでなく、同居されているご家族の足水虫・爪水虫も同時に治療しないと、家庭内の白癬菌はなくなりません。
足水虫・爪水虫による「かゆみ」「皮むけ」などの症状がなくなっても、角層には白癬菌が残っている場合があります。自己判断で薬を中止してしまうと、悪化や再燃(症状がぶり返すこと)があります。足水虫では症状がなくなっても最低1か月は塗り続けることが大切です。完治するまで時間がかかりますが、足水虫・爪水虫は感染症なので、しっかり治療しなければ自然に治ることはありません。医師の指示通り、薬の使用を続け、最後まで治療しましょう。
市販されている水虫薬のほとんどは「足水虫」のお薬であり、爪水虫で効果が認められている市販薬は、今のところ発売されていません。(※2022年10月現在)
確実に「足水虫」であれば、市販薬でも治る可能性がありますが、病院で処方するお薬と比べて、市販薬には白癬菌に有効な成分以外の成分も含まれているため、「かぶれやすい」とされています。
また、足のかゆみ・水疱は、汗疱(かんぽう)・掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)など足水虫と似ている別の皮膚病でも現れるため、患者さん自身で判断することは大変危険です。足や足の爪に気になる症状が現れた場合には、一度当院までご相談ください。
子どもだから、水虫にならないということはありません。水虫は感染症なので、誰にでもうつる可能性があります。感染の成立には、「白癬菌の長時間付着」に加え「付着した部分に高温多湿の環境がある」ことが必要です。基本的にお子さんは靴や靴下を1日中履いている機会が少ないので、感染が成立しないケースが多いのです。
一方、お子さんが成長して、一日中靴や靴下を履くようになると、足水虫になることが増えていきます。
水虫患者さんの洗濯物とそうでない方の洗濯物を一緒に洗濯しても、問題ありません。
洗濯で菌はうつりませんが、高温洗浄できれば、より良いでしょう。